しんがり

7月 18th, 2014

しんがり山一證券が自主廃業を発表したのは、私が社会人2年目の秋だった。「社員は悪くありませんから」と号泣する野澤社長の姿は連日テレビで放送され、それが何だか滑稽に思えた。

年が明け、私の会社にも元山一証券の人が数人中途入社した。野澤社長の号泣会見を思い出し、その人たちもなんだか哀れであり、どこか蔑んだ気持ちで見ていた。

この『しんがり』は、廃業発表後、再就職する社員が多い中で、会社に踏み留まって経営破綻の原因を追究し、清算業務を行った12人の社員を描いた本だ。

破綻へ向かう様子、廃業発表後の混乱、そして原因が究明され、収束へと向かう様子が緊迫感を伴って描かれている。顧客(総会屋?)の恨みによって命を落とす者や、過労死するものなど、金融業界の暗部も描かれている。フィクションではない。リアルでの出来事だ。その点が、ある意味池井戸潤の小説よりも惹き込まれた。

この本で描かれた12人も、最後はそれぞれの新天地に再就職していく。山一はなくなっても、実は、山一の廃業で働き口を無くした元社員は、労働市場では引く手数多で、実はそれほど再就職には苦労していなかったのだ。そう思うと、野澤社長のあの時の涙は誰に対して流したものだったのか、分からなくなる。

私のマンションの初代管理人さんには、引っ越してきてから7年近くお世話になったが、実は彼も元山一の社員だった。廃業を機会に多額のカネが飛び交い、生き馬の目を抜く証券業界から足を洗い、マンションの管理人に落ち着いたのだろう。廃業に至る山一の現状を見るに、そちらのほうがマトモな世界だ。彼も山一時代は苦労したに違いない。元管理人さんは、今は埼玉で静かに暮らしている。

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